「勝の哀しみ2」
盧花と同じように、「一時の花を求めず常に真実の花を求めよ」と言った人に、室町時代に能を大成した世阿弥がいます。
一遍上人が開いた時宗では、戒名には名前の一字の下に阿弥陀仏と付けます。
世阿弥は、時宗教団に従属し、猿楽を支えた一座の出で、名前の「世」の下に阿弥陀仏をつけ「世阿弥陀仏」が彼の戒名です。
父は観阿弥で、彼は父の猿楽の教えを基に、能の修行法と心得等を「風姿花伝」という本にまとめました。
観客に感動を与える力を「花」と表現し、しかもその花は、一生に一回ではなく、それぞれの年代によってあると言っています。
しかし花というのは一年中咲いてはおらず、咲いては散って常に変化していく。
これらの年代に咲く花を、「時分の花」と言い、この時自分は達人であるかのように思い込むことを「あさましきことなり」と切りすてます。
新人であることの珍しさによる人気を本当の人気と思い込むことほど愚かなことはない。
その時こそ「初心」を忘れず稽古に励み「真実の花」を咲かせなさい、と指導するのです。
盧花の言う「一時の栄光を求めず永遠の生命を求めよ」と、世阿弥の言う「時分の花ではなく、初心を忘れず真実の花を咲かせなさい」とは何を言っているのか。