住職のお話

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住職

「慈悲と智慧」

昔から、我々が人生で艱難辛苦に出合った時にとなえるお経に「般若心経」と「観音経」があります。両経とも、主役は観音様です。

 観音様のもともとの名前は「アヴァローキテ・シュ・ヴァラ」と言い、原意は、「私心無しにあるがままを、あるがままに見る」という意味です。仏教史上の二大訳経家と言われ、後に阿弥陀経・法華経を翻訳した鳩摩羅什(くまらじゅう)(334~413)は、「観世音菩薩」と漢訳しました。我々が観音様と言っているのは、この訳を縮めた呼称です。またのちに、般若心経を翻訳した玄奘(げんじょう)三蔵(さんぞう)(602~664/十六年に渡るインドへの求法の旅を「大唐西域記」として著し、それが後に「西遊記」のもととなる)は、「観自在菩薩」を漢訳しました。

 お経とは、そもそもお釈迦様が悟った内容です。その内容は大きく二つあります。一つは、宇宙万有の真理。もう一つは、人間とはどのような存在かです。お釈迦様は、我々人間が無意識のうちに、我々の内に埋もれている素晴らしい機能があることを悟ったのです。その働きを、誰の目にも分かるように象徴的に示されたのが観音様なのです。

 その素晴らしい機能は二つあり、一つ目は「慈悲」で二つ目は「智慧」です。鳩摩羅什は「観世音菩薩」と訳し、「慈悲」を強調して「法華経」を訳しました。玄奘は「観自在菩薩」と訳し、「智慧」を強調して「般若心経」を訳したのです。

 そしてその素晴らしい機能を、観音様の名前を唱えることによって、思い出しなさい、引き出しなさいというのです。

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